KCオフェンスの抑え方(AFC Championship/ CINvsKCレビュー)

KCオフェンスの抑え方(AFC Championship/ CINvsKCレビュー)

CINがAFC Championshipで見せたCIN流のKCオフェンスの抑え方についての記事です。

記事の流れは、まず①KCオフェンスの凄さをおさらいして、その後、②そんなKCをどのくらいに抑えたのかにいて、そして最後に、③どうやって抑えたのかについて書いていきます。

Photo by: https://www.bengals.com/news/bengals-defense-looks-to-rebound-from-white-out-in-new-york

 

KCオフェンスの凄さ

Photo by: https://clutchpoints.com/the-chiefs-x-factor-against-the-bengals-in-the-afc-championship-game-and-its-not-travis-kelce/

チーム成績から書くと、得点数はリーグ4位(ドライブあたりではリーグ1位)、獲得パスヤード数もリーグ4位です。
その数字の通り、Patrick Mahomes(パトリック・マホムズ)率いるパスオフェンスは止めるのが困難です。

まず、Mahomesを抑えるのが難しい理由の1つは、彼のプレッシャー回避能力の高さです。
プレッシャーがかかっても、ポケットの外に出て自分で時間を作りながら難しい体制でもパスを通してきます。もちろん、スクランブルで自らヤードを稼ぐこともできるのでやっかいです。

次に、WRのTyreek Hill(タイリーク・ヒル)です。彼はスピードが持ち味ですが、ピュアなディープスレッドというより、フィールドを横切るようなアクロス・クロス系のルートのターゲットが多いです。彼のスピードであればマンツーでクロス系のルートについていくのは至難の技です。

最後に、TEのTravis Kelce(トラビス・ケルシー)です。彼はTEのサイズを有しながらルートランの切れが素晴らしく、CBでもなかなかついていくのが厳しく、さらにカバーできていてもサイズを活かして無理やりレシーブするので、1人で抑えるのが困難です。

 

KCオフェンスをどのくらいに抑えたのか

そんなKCオフェンスをCINはどの程度まで抑えたのでしょうか。失点はOT含めて24点に抑え、3Q以降はわずか3点に抑えるアジャストを見せました

CINについてですが、今シーズンCINディフェンスは決して良い出来とは言えず、失点はリーグ16位でした。
またKCオフェンスの強みのパスに対しても、CINは被パスヤードはリーグ26位と、前評判ではMahomes率いるオフェンスを抑えるのは厳しいという評価でした。

 

KCオフェンスの抑え方

Photo by: https://arrowheadaddict.com/2022/01/31/bengals-three-man-rush-flummoxes-patrick-mahomes-chiefs/

そんなCINですが、KCを抑えるためにとった手段はパスカバーの人数を増やすことでした。
ラッシュの人数を1枚減らして3 Men Rushにすることで、パスカバーに割く人数を7人から8人に増やしました。私の数えでは、38回のパスプレーの内、11回(29%)も3 Men Rushを使用していました。その内8回(73%)はシングルハイのパスカバーでした。

下記ツイートのように、3 Men Rushの効果抜群でした。

Mahomes相手にブリッツなしで後ろを固めてツーハイで守るのは定石ですが、さらにその上をいきました。

それではその狙いを説明していきます。

 

3 Men Rushの狙い①クロス対策とKelce対策を同時にする

Photo by: https://ftw.usatoday.com/2021/03/chiefs-tyreek-hill-mecole-hardman-speed

前述したように、KCレシーバー陣には、HillとMecole Hardman(メコール・ハードマン)というスピードスターがいて、彼らがクロス系のルートを狙っています。また、Kelceという、1人のディフェンス選手で1試合を通してカバーするのは不可能なレシーバーもいます。

HillやHardmanのクロスや縦を抑えるためにツーハイをするのはもはや常套手段です。しかし、その手段の問題が、ラッシュ4人とツーハイのS2人を除くと、残りのカバーはレシーバーと同数の5人で、Kelceを1対1でカバーする必要があり、これがなかなか難しいです。
かといって、Deep Safetyを1人減らしシングルハイにして、Kelceにダブルチームを組むと、Hillのクロスを抑えるのが難しくなります。
これがKCと対戦する各チームが抱えるジレンマです。

CINはそれを同時に解決するために、ラッシュを1枚減らして、Deep Safetyを1人(シングルハイ)、Kelceのカバーマンを1人増やす(ダブルチーム)、Robberを置く(クロス対策)というカバーを多用しました

 

具体例で見ていきましょう。

緑丸がKelceとHillで、Kelceにはダブルチーム、シングルハイ、スクリメージに並んでいるラッシャーの1人がRobberに下がる、他はマンツーという、Cover 1の亜種のようなカバーです。

スナップ後が下記です。

Kelceはダブルチームで徹底カバー。Hillはスピードを活かしてフリーになりかけていますが、その先にはラッシュしなかった選手が待ち構えます。

こうして、KCの要注意レシーバーHillとKelceを同時に抑えます。

 

3 Men Rushの狙い②Mahomesのスクランブル対策

また、KCパスオフェンスで忘れてはならないのが困ったときのMahomesのスクランブルです。Mahomesは4 Rush Attempt / Game(2020年~2021年)とスクランブルを仕掛けてきます。

どれだけきっちりレシーバーをカバーしていても、マンカバーでは特に、QBのスクランブルでロングゲインされます。

そこで、ラッシュしなかった1人をQB Spyとして配置しました。

 

具体例で見ていきましょう。

通常のCover 1 Robberに見えますが、黄色の選手がラッシュしません。

スナップ後が下記です。

黄色の選手がQB Spyとして、Mahomesのスクランブルを警戒します。
これの良いところがOLを釣れることです。OLからすると、ラッシュはしていないのですがポケットの近くにいるので、ラッシュしてきたときのために警戒せざるをえません。

そして、緑丸のHillは相変わらずRobberに捕まっています。Robberの選手が良く守っている場面が多く、クロスのルートを警戒していましたね。スピードに乗ったレシーバーをカバーするのは簡単ではありません。

(ちなみに、ここでは、QB Spyに1枚使っているのでKelceにダブルチームは組めていません。)

まとめると、ラッシュの3人、Deep safetyの1人、レシーバーをマンマークする5人を除いた残った2人の役割ををタイミングによって変えました。
警戒すべき、Hill、Kelce、Mahomesのスクランブルに対し、それぞれ、Robberの配置、ダブルチーム、QB Spyと3つの役割を残った2人で使い分けました。(完璧なカバーなどなくどこかが空くのは必然)

 

3 Men Rushの狙い③ラン対策

過去、KCと対戦してきたチームはツーハイを用いることが多かったですが、対してランにやられることも少なくはありませんでした。(一般的に、ツーハイはSが2人ディープにいるのでランへの対応が遅れる)

実際、この試合でもCINは前半、全24スナップの内、17スナップ(71%)はスナップ時にツーハイ隊形でした。(明らかなパスシチュエーションは含んでいません)それもあり、前半、KCはランで11 Attemptの60 Yards稼ぎました。
KCに対しては何と言ってもパスオフェンスを封じる必要がありますが、このランディフェンスの出来では、ランもパスも止めれず後半も厳しい戦いが予想されました。

そこで、後半、CINはスナップ時のワンハイ隊形の使用割合を高めました。前半はスナップ時点のツーハイ隊形が71%に対し、後半は47%(全19スナップの内ツーハイは9回)まで下げました。
そのため、KCはパスの割合を高めました。前半のパス割合は59%(パス16回、ラン11回)でしたが、後半は71%(パス20回、ラン8回)でした。(ツーミニッツは除く)

パスは前述した対策を行い、ランに対してはスナップ時にワンハイを見せることでそもそものラン回数を減らしました

 

まとめ

CINが用いたKC対策のキーワードは次の通りです。

3 Men Rush
Robberによるクロス対策、Kelceへのダブルチーム、QB Spy
ワンハイ

Mahomesがラッシュ・ブリッツに強いなら、いっそラッシュの人数を減らせばいいじゃないかという逆転の発想ですね。これを受けて、来年KCがどう対応するのか、KCと対戦するチームが真似するのか、来シーズンが楽しみですね。

NFLは強力オフェンスが登場しても、それを抑えるスキームが必ず登場してくるのが面白いところです。
CINのDCはLou Anarumoですか。

 

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